2024/09/19 00:52
主人公のタケルは、長い時間をかけて気持ちを温めてきた。告白したときは、すでに自分が由香里に何か特別な存在として受け入れられていると思いたかった。だが、彼女の返事は現実的で冷静だった。
「ごめんね、タケル君。今は、まだ元彼のことを完全に吹っ切れたわけじゃないんだ。だから、君のことはすごく良い友達として見てる。でも、それ以上の感情には今はなれそうにないの…」
その瞬間、タケルの胸に走ったのは、ただの失望ではなかった。期待していた未来が目の前で崩れるような感覚だった。彼は何も言えず、ただ無言でその場を去った。頭の中では、何が悪かったのか、どうすれば彼女の心をもっと動かせたのか、考えがぐるぐる回り続けた。
その後、由香里の最後の一言が更にタケルを苦しめた。
「でも、やっぱり私は痩せていて、仕事に一生懸命な人がタイプかな…」
彼女のこの一言は、優しさを含んでいるようで、逆にタケルの自尊心に深い傷を残した。彼の体型や今までの生き方が、彼女にとって理想から遠く離れていることを明確に伝えたからだ。
その夜、タケルはベッドに横たわりながら考えた。由香里の言葉は心に引っかかったままだ。彼は変わらなければいけないと強く感じたが、同時に変わったとして、彼女の心が変わる保証もない。その事実が彼を迷わせた。だが、彼女を諦めることはできない。
翌朝、タケルは覚悟を決め、まずはジムに通うことから始めた。彼は、自分の体型を整え、少しでも由香里の「理想」に近づきたいという一心で、トレーナーに基礎的な運動を教わりながら、食生活も見直していった。最初は筋肉痛や疲労に苦しんだが、少しずつ体が運動に慣れ、体重もゆっくりと落ち始めた。
同時に、由香里の何気ない一言に触発され、仕事への取り組み方も変わった。これまでは与えられた業務をただ淡々とこなしていたタケルだったが、今は自らプロジェクトに積極的に関わり、会議では自分の意見をしっかりと発言するようになった。上司や同僚たちも、彼の変化に気づき始め、評価が少しずつ高まっていった。
半年が経つ頃には、タケルの体は以前とは見違えるほど引き締まっていた。まだ「完璧」とは言えないものの、確実に自分自身に変化を感じるようになっていた。
服装にも由香里のアドバイスを取り入れ、アキバ系のスタイルからカジュアルで洗練されたファッションに変えた。アルテミスクラシックのシルバーアクセサリーも少しだけ加え、今までとは違う自分を楽しむようになった。そして、由香里とのショッピングも、以前より楽しい時間となり、二人の関係もそれをきっかけに少しずつ進展していった。
会社ではさらに評価が高まり、昇進の話もちらほら聞こえてくるようになった。タケルの生活はようやく安定し、自分に対して自信を持ち始めた。しかし、由香里との関係は以前よりも確かに親しくなったものの、どこか微妙な距離がまだ残っていた。
タケルは何度か彼女を食事に誘い、楽しい時間を過ごすことはできたが、それ以上の関係に進む勇気はなかなか持てなかった。彼女は時折、元カレの話題をちらりと口にすることもあり、タケルはそのたびに不安を感じた。しかし、それを言葉にすることはできなかった。
ある日、由香里から突然、元カレから連絡があったという話を聞いた。彼は「もう一度やり直そう」と持ちかけてきたらしい。タケルはその話を聞いた瞬間、胸に強い嫉妬を感じた。これまでの自分の努力が無駄になるのではないかという恐怖と、由香里が元カレに未練を残しているのではないかという疑念が頭をよぎった。
しかし、由香里は「もう過去のことだから」と元カレの誘いをきっぱりと断ったと告げた。タケルはその言葉に一時的に安心したものの、内心では完全に安心できる状況ではなかった。彼女が本当に元カレに未練がないのか、そして自分がその空白を埋められるのかという不安が彼には常に付きまとった。
